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情報インフラを語る (3)

  • 2 日前
  • 読了時間: 5分

つながり(ユーザ接点)を競うビッグテック


今日の情報インフラにとって欠かせないものとして、ソフトウェアとサービスの話をしました。次にお話しするのは利用者とのつながり(ユーザ接点)ということです。サービスもソフトウェアも目的を達するための大事な手段です。サービスやソフトウェアを駆使して情報インフラが互いに競い合うのは、ユーザをどうつなぎとめるかということです。その成否が決まるバトルフィールドがユーザ接点です。

江戸時代の天守閣然り、日本では大事なものほど奥に置かれています。昭和の時代に日本企業が築き上げた情報インフラでも大事なもの、例えばデータベースやバッチプログラム、ストレージなどはデータセンターの奥に設置されており、ユーザ・顧客の目にふれるようなものではありません。昭和の情報インフラを築き上げた日本の情報産業も日本の伝統的なものづくり文化をしっかり引き継いできました。重厚長大な情報システムを作り上げることが目的の大規模システム構築の常識では、大事なものが利用者から最も遠いところに置かれているのがあたりまえでした。利用者は間違えるし、人によっては何をするかわからない。利用者のどんな行動も予想し、業務システムが崩壊しない堅牢なシステムを作ることに誇りがありました。

まだ駆け出しのころ、顧客からアプリケーションの使いにくさについて散々文句を言われた私は開発プロジェクトの中心人物だった大先輩に苦情をいったことがあります。すると「ちゃんと動くことが問題なんだよ。使いにくかろうがなんだろうが、それを使わせるのがお前の仕事だ」と説教をいただきました。インターネットの時代になり、ユーザインタフェースという言葉がもてはやされた時も、画面デザインの話にすぎないものと思っていました。

さて、話をビッグテックに戻します。今日の情報インフラにおいて絶対的な存在となったビッグテックたちは、私たち日本のIT業界とは違ったものをみていました。GAFAともてはやされたGoogle、Apple、Amazon、Facebookはクラウドコンピューティングをベースとしたプラットフォームという概念を見出し、そこにユーザを「リテンション」することによって巨大な経済圏を成立させることができるということを発見し、大きな成功に結びつけました。彼らにとって最も大事なものはユーザ接点。接点が使いやすく、ユーザにとってなくてはならないものであればあるほどプラットフォームの完成度は高まっていきます。

GAFAのプラットフォームではユーザまでもがプラットフォームの重要な要素として組み込まれています。例えばGoogle検索は何億人ものユーザが知りたいことを検索するという行動そのものがプラットフォームの重要な機能を提供しています。FacebookやX(旧Twitter)ではユーザが書き込むもののみがコンテンツです。ユーザの行動がインフラの一部となってしまったことの前提には、それぞれのプラットフォームのもつ優れたユーザインタフェースの存在があるわけです。

このことに最初に気づきを与えたのはAppleのスティーブ・ジョブズだったと私は考えています。三代目CEOのジョン・スカリーにAppleを追い出されたジョブズは1996年にAppleへ戻りました。辞めてから11年後のことです。当時、AppleはMicrosoftとの競争に敗れて火の車の状態でした。ジョブズはしばらくして2001年にオーディオ製品のiPodを製品化します。ソニーのWalkmanが全盛の時代にPCメーカのAppleがポータブルオーディオ製品をどうして市場に出したのか、当時の私はよく理解していませんでした。

われわれ消費者はiPodというハードウェアに注目しましたが、本当の製品はiTunesだったのです。私はiTunesが世界で初めてのプラットフォームだったと思います。(NTTドコモのi-modeは1999年にスタートし、2026年に終了しました。i-modeをここで議論するプラットフォームとして評価することもできると思います。またAppleはi-modeを研究し尽くしてiTunesに活かしたと考えられます。)その後のAppleの躍進は周知の通りです。iPhoneが2007年に商品化され、iPad、Apple Watchと次々に新しい製品が投入されて、気づけばAppleはMicrosoftを凌駕する世界最大の企業になっていました。この時期に最も大事なことは、Appleの時間占有率です。私たちの生活はどんどんiPhone中心になっていき、やがて24時間、ベッドの中でさえもiPhoneを抱えているようになったことです。最初に製品化されたiPodから大きく変化したのが時間占有率、そしてそれこそがプラットフォームの強さだと私は考えます。

iPhone登場まで、インターネットの入り口はPCのブラウザと検索エンジンでした。Yahooを射程に収めたGoogleはiPhoneをみて大きな危機感を感じたことでしょう。インターネットの入り口が、せっかくYahooからもぎ取った検索エンジンではなく、小さな携帯電話になってしまう将来が見通せたからです。Googleは2005年にモバイルOSを開発していたAndroid社を買収すると、なんとiPhoneが製品化された翌年の2008年にAndroidを市場投入したのです。

iPhoneとAndroidの熾烈な競争の結果、世界中の人々の可処分時間はスマホに占有されることになりました。プラットフォームの完成です。しかしプラットフォームの進化は止まりません。時間を占有し、エンターテイメントを占有し、ビジネスを占有し、そして今や金の流れまで飲み込もうとしています。

勝負はついています。AppleとGoogleのプラットフォームを無視しては、どんなビジネスも成立しません。それはプラットフォームがマーケットと最強の繋がり(ユーザ接点)を持っているからです。世界中のスマホユーザは、あらゆるビジネスにとって顧客であると同時に、プラットフォームの一部でもあります。全てのルールを決めることのできるプラットフォームは、ある面、国家をも凌ぐ権力を持っているということもできます。


企業にとってプラットフォームとの共存は避けられません。リアル接点からプラットフォーム上のデジタル接点へ自社の顧客との接点を再定義していかねばなりません。銀行は店舗というリアル接点から様々なアプリというデジタル接点への切り替えを急がねばならないでしょう。クレジットカード会社はプラスチックカードというリアル接点からオンライン決済というデジタル接点への切り替えが必要です。新たなデジタル接点は、かつて私が大先輩に叱られたようなユーザインターフェースであってはなりません。自社の顧客がプラットフォームの一部なのだということを前提として、プラットフォームのルールや環境に最も適合したユーザインターフェースを生み出す必要があり、企業はそのユーザインターフェースを競う現実に直面しています。

 
 
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